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かなり早い時期から患者さんと話し合いをしなければなりません。告知はうんと前にやっておかなければ間に合わないのです。植物状態にならなければ死ぬことのできない患者さんには、脳腫瘍であることを告知しただけでは足りません。その患者さんが最終的には意識がもうろうとなり、呼吸できなくなるというステージを経ないと心臓は止まらないという話をきちんとします。ある患者さんから、自分が悩んでいるのは死ぬことではない。しかし死ぬ前の半年間あるいは3か月間植物状態でいることだけは避けさせてください。植物状態で生かされることは耐えられないといわれたことがあります。これは多くの患者さんに、早い時期にきちんと話をしておけばいいといわれることでもあります。医師としては、その患者さんの求める尊厳死を頭に入れて準備しておかなければいけない。患者さんとゆっくりと話し合って患者さんかどういう形で最後の人生を送りたいのかを聞いておく。これがコミュニケーションです。アルツハイマーでも同様です。最後にチューブにするかどうかということ、これは非常にむずかしい判断ですが、ずっと前から患者さんを含めた家族との話し合いの中で、その人のQOLということでやっていくしかないのだと思います。

 

プライマリナーシングのメリット

渡辺 プライマリナーシングは私の病院でも実践していますが、これは看護婦が患者さんの最後までケアに責任をもって行うということだと思います。責任をもって行うケアがなされない限り、病名告知を受けた患者さんを最後までサポートする、あるいは医師とナースの力のバランスの不均衡を解決する上でも、看護は何の責任をもつのかということを実践で示す必要があると思います。古い教育を受けた多くの医師は、看護婦は医師の手伝いをするというのが染みついているので、そういう方たちにチームではみんなが対等なのだということをわかってもらうためにも、まず看護婦が患者のどこの部分をどのように責任をもつかを実践で示すことが重要ではないかと思います。最近、プライマリナーシングをとる施設が徐々にふえてきました。がん患者にはプライマリナーシングなしでは看護ケアは充実しないというのが私の何十年かの経験から得た結論です。
日野原 時期も迫ってきましたので、西村チャプレンから今回のカンファレンスに出席されました印象をお聞かせいただきましょう。

 

高齢社会を視座に入れたQOLを

西村 私は日本より北米の状況のほうに通じているのですが、日本でいまQOLが語られ始めたことに一種の驚きを感じます。というのは、医療が何であったのかということに対する意識の高まりにこんなに時間がかかったのかという感じからです。私の関心は生命倫理ですが、生命倫理の分野からしますと核の問題よりも重大な問題をつきつけられて、どうしたらいいかわからないというのが現状です。そういったことにいま大きな津波が押し寄せてくるような感じがしています。
もうひとつつけ加えると、女性の観点から見た医療のあり方がいま北米では激しい勢いで語られ始めました。わたしはそれをけしかけるのですが、いままで男性が医療の世界を牛耳っていたと感じられてなりません。
たまたま医師と看護婦の共同作業という話になりましたが、男性の立場からだけでは医療は解決しないので、女性の知恵も出し合って、21世紀に向けて女性の立場からも医療はこうあるべきだと発言をすべきではないのか。そして、それが間違っていてもいいのです。その発言を通してもっと理論を深め、それによって一般社会が意識していく。これからの高齢化社会にあっては、従来の医療の考え方ではもう処理しきれないのであって、それは生命と死という人間にとってはいちばん大事な最大の課題を私たちが何らかの意味で先導的な役割を担っていかなければならないからです。日本

 

 

 

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